介護離職問題が、世間で話題になっています。介護離職はしないほうがよい、といった意見が主流です。なぜなら、介護離職すると、介護が終わった後、介護をしていた人が仕事につけなくて困るからです。
このため、国も仕事をしている介護者が、介護離職しなくても良い制度を設けています。
しかし、こと発達障害/精神障害者の介護離職の問題に関してはどうでしょうか。そのための、特別な制度はありません。一般の制度を使うのみです。
発達障害/精神障害者の介護離職問題に関しては、特別な困難が予想されます。しかし、それを支える制度はないのです。
発達障害/精神障害者の就労率が上がってきたのが最近で、まだ発達障害/精神障害者の介護離職があまり大きな問題になっていません。
でも、人知れず、介護離職をしたり、また介護離職すべきか悩んだりして、苦しんでいる人は多いものと思われます。
発達障害/精神障害者向けの介護ノウハウの情報も全くないのも問題です。
このブログでは、発達障害/精神障害者の介護離職問題を検討してみたいと思います。
発達障害/精神障害者の介護サービスの現状、介護離職をどうすべきなのか、介護に際してどんな問題が現れるのか、しっかりした介護予防の必要性、普通の発達障害/精神障害者向け支援サービスをしっかりとっておきましょうというお話、よく起こるメンタル不調の連鎖、そして最後に結局介護離職するかどうか検討してみたいと思います。
発達障害/精神障害者の介護サービスの現状
まず、一般向けの介護サービスや介護離職防止制度についてお話ししましょう。その後に、発達障害/精神障害者の介護離職防止制度や介護サービスの現状について述べてみます。
一般向けの介護サービスや介護離職防止制度は整えられています。ただし、それは健常者向けだと考えて良いでしょう。
介護離職防止制度には『育児・介護休業法』に定められた次のようなものがあります。
介護休業、介護休暇、所定労働時間の短縮等の措置、・・・
また、『雇用保険』には、介護休業給付というものがあります。
これに加えて、民間の介護サービスを利用して介護していくことになります。
これらは、すべて一般の人向けのもので、発達障害/精神障害向けの介護離職防止制度ではありません。
例えば、発達障害/精神障害者なら、介護休業期間が延ばせるとか、介護休業給付が多くもらえるとか、そのようなことはありません。
また、これからそのような制度が作られる気配もありません。
それで、発達障害/精神障害者は、自身の障害支援サービスを利用しながら、一般向けの介護離職防止制度を組み合わせて、介護離職を防止していくことになります。
ですか、さまざまな障害の課題を抱えた、発達障害/精神障害者がこれらの制度だけで、介護離職を防止するのは困難です。
次に、発達障害者/精神障害者が介護離職に際して、どのような問題が出てくるのか、見てみましょう。
発達障害/精神障害を抱えていると、疲れやすい、マルチタスクが苦手、触覚過敏があり身体介護でストレス、介護事業者とのコミュニケーションがストレス、突発的な親の容態変化にパニックを起こす、意識が仕事と介護に分散され集中できない、そのほかにもたくさんの問題が現れます。
発達障害/精神障害者は、仕事×介護×自分の障害、という三つの問題のかけ算を抱え、また当人が制度の理解をしづらかったり、複合的な問題にさらされ、非常に高ストレスな状態になります。
にもかかわらず、現在、発達障害/精神障害者の特別な介護サービスはありません。特に行政の方で認識もされていないようです。
ただし、各地の地域包括支援センターの職員さんや、市役所介護福祉課さんや、介護サービス事業者さんには、発達障害/精神障害を勉強している人もいて、話を聞く対応はしてくれる・こともあります。場合によっては、使える資源の適切なサービスをうまく紹介してもらえる場合があります。
障害をオープンにして相談してみるのも良いと思います。
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具体的にどんな問題が現れる
次に、発達障害/精神障害を抱えていると、どんな問題が現れるか具体的にみていきましょう。
発達障害/精神障害者共通の問題
・マルチタスクが苦手。仕事と介護と自分の生活が大変で、パニックになる
・脳が疲れやすく、動けなくなる。仕事、介護、自分の生活を抱えていると脳は疲れやすい。
・忘れやすい。介護のスケジュール、介護事業者とのスケジュールがわからなくなる。介護の方法とか忘れてしまう。抜けてしまう。坂道で車椅子のストッパーをかけ忘れてしまうなど。
・精神障害が再発すると、家族みんなとも倒れの危険がある。
そのほかにも、発達障害の人には、次のような問題があります。
・親、兄弟が発達障害である。親に発達障害がある場合の介護は未知数です。おじいさんが発達障害でおばあさんがカサブランカ症候群で、夫婦仲が悪かったりします。そのような場合は、特におばあさんの家事を手伝ったりきめ細やかな配慮が必要です。
・良い介護サービスや介護事業所を、発達障害特性のため適切に選べない。発達障害は複数の情報を頭の中でまとめるのが難しく、情報量の多い介護サービスを適切に選べなかったりします。
・介護事業者とのコミュニケーションが取りにくい。発達障害の人はコミュニケーションに問題があったりするので、うまくできなかったり、極度の不安を感じます。
・感覚過敏。介護には身体介護(肌の接触)、臭い、音など生じてきます。感覚過敏者にはきついです。
・手先、運動が不器用。身体介護に時間がかかる。
介護離職を検討しなければならない
以上のような理由から、発達障害/精神障害者の介護は特別な困難を抱えます。しかし、その特別な困難を支える特別な制度はありません。
介護制度は健常者を想定しています。
発達障害/精神障害者向けの、特別な手厚い介護サービスはありません。
障害枠で働いていて、会社が障害に理解があって、介護制度をすべて使っても、自分の障害特性がストレスになって、介護離職を検討しなければならない場合もあります。
自分の障害と介護で疲弊してしまうことが予想されるからです。
就労についたばかりの時にお願いしていた以上の、仕事の負担を減らすなどの配慮を求めなければなりません。
それは、難しいことだと思います。
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重視される介護予防~先手先手の介護予防~
以上のようなことから、発達障害/精神障害者の介護に関しては、困難が予想されます。
しかし、発達障害/精神障害者の介護に関しては、いくつか打ち手がありますので、説明しておきます。
これで、完全に介護離職を防げるというものではないのですが、いくらか役に立つでしょう。
1.親が60歳位になれば、「介護の入門書」などを複数読んでおきます。
2.60歳くらいから親の食生活、運動生活をよく観察して、生活不活発にならないように見守りましょう。
3.早めに、先手先手で介護予防をしていきましょう。
4.地域包括支援センターには、早めに言っておき、親の老化具合の報告をし、合わせて、自分に発達障害/精神障害があることを伝えておきましょう。
発達障害/精神障害に対する特別な介護制度はないのですが、地域包括支援センターに行けば、職員さんが発達障害/精神障害について勉強していて理解がある場合があります。
この場合、職員さんが使える制度を紹介してくれる場合があります。例えば、地域ボランティアさんなどのヘルプが使える場合があります。僕のところでは、傾聴ボランティアさんに来てもらっています。
普通の発達障害/精神障害者の支援サービスは受けていますか
介護の入り口で、発達障害/精神障害者の支援サービスをきちんと最大限利用しておきましょう。介護のサービスではありません。
介護に入った時に、自身が負担にならないように、発達障害/精神障害者の支援サービスを最大限受けておきます。
利用できるサービスは次のものです。
・通院・服薬
・精神障害者手帳の取得
・障害年金の取得
・ヘルパーさんの活用
・障害者就労・生活支援センターなどの相談先の確保
こういったサービスをきちんと受けておくとともに、サービス利用に慣れておくことも大切です。
##メンタル不調の連鎖について
次に、発達障害/精神障害者の、介護において生じる、メンタル不調の連鎖について、触れておきます。
メンタルに不調が生じるのは、発達障害/精神障害の当事者だけではありません。介護されるご両親も、高齢によりメンタルに不調が生じることがあります。
また、介護する側のご兄弟に、メンタル不調が現れることもあります。
まず、ご自身がしっかりメンタルについて、管理できなければ、不調を起こした時、ご家族にメンタル不調が連鎖することが十分あり得ます。
特に、発達障害/精神障害を抱えている家庭では、それまでさまざまなトラブルに見舞われてきたので、家族でストレスを抱え込んでいることがあります。
有名なのが、カサンドラ症候群ですね。夫が発達障害で、それを支える妻がメンタル的に不安定になってしまうというものです。
一般に家族に発達障害者がいれば、その家族みんな何らかのストレスを抱えていると言って良いでしょう。
このような状況で、誰か1人がメンタルが不調でダウンすると、別の誰かがメンタル不調でダウンしてしまいます。
これは、気をつけてください。
介護者の当事者会に参加し、お話をするなどしてストレスを発散し、溜め込まないようにしてください。
適度な息抜きで介護を誰かに任せて、定期的にカフェなどにいくのも良いですね。
くれぐれも、メンタル不調の連鎖だけは、起こさないように気をつけてください。
結局介護離職する/しない
介護離職しない、と決めたとしましょう。しかし、介護を続けていくうちに、発達障害/精神障害のストレスと仕事を両立させていくのが困難になる可能性もあります。職場に配慮を求めても、得られないこともあるでしょう。
仕方なく、介護離職する場合もあることを考えておいてください。
判断力に困難を抱える、発達障害者では、介護の入口の段階で、介護離職するかどうか決めるのは困難です。
自身がメンタルダウンする、早く前に、介護離職した方が良いでしょう。
介護制度などうまく使いこなせなくて、介護離職に至る場合もあるでしょう。そうならないように、早め早めに介護の勉強はしておくべきでしょう。
介護離職をするという選択肢をとった場合、介護が終わってから自身の仕事・お金をどうするか、考えなければなりません。
障害年金などがあれば良いですが、それでも足りないことも多いでしょう。
ご家族と世帯分離して、生活保護を受けながら、就労先を探すということも、考えなければなりません。
介護離職するか、しないかは、よく考えて、早め早めに情報収集して自身のシミュレーションをしておくのが良いでしょう。
まとめ
・発達障害/精神障害者向けの特別な介護サービスはない。
・発達障害/精神障害者は、自身の障害支援サービスと、一般向けの介護サービスを組み合わせて、介護をしていく。
・これらの制度だけで、介護離職を防ぐのは困難。
・地域包括支援センターや市役所介護福祉課の職員さんに、障害をオープンにして相談してみるのも良い。
・家族誰かに、メンタルの問題が現れると、共倒れが起こることがある。
・介護離職を慎重に検討しなければならない。
・先手先手の介護予防が大事
・自身の障害者サービスは最大限受けておきましょう。
・家族のメンタル不調の連鎖を防ぎましょう。
・「介護が大変なので」と、職場に配慮を求めても、配慮が得られないことも多い。
・介護離職した場合、介護が終わってから自身の仕事・お金をどうするか、考えなければならない。